特別支援教育には、ミニマリズムが不可欠!
と、僕は強く思っています。
本記事では、その理由について熱く語ります!
僕が特別支援教育に携わった履歴
僭越ながら、これからするお話に、一定の説得力を付与する為に…
- 静岡大学教育学部障害児教育専攻 卒業
- 取得した教員免許状
- 小学校教諭一種免許状
- 中学校教諭一種免許状(社会)
- 特別支援学校教諭一種免許状(知・肢・病)
- 特別支援学校勤務経験9年間
- 病弱教育(児童養護施設併設校)3年
- 肢体不自由教育5年
- 知的障害教育1年
- 現在は、民間企業で会社員として勤務
そもそも、特別支援教育の目的とは?
教育基本法
第1条 教育は、人格の完成を目指し、平和で民主的な国家及び社会の形成者として必要な資質を備えた心身ともに健康な国民の育成を期して行われなければならない。
学校教育法
第72条 特別支援学校は、視覚障害者、聴覚障害者、知的障害者、肢体不自由者又は病弱者(身体虚弱者を含む。以下同じ。)に対して、幼稚園、小学校、中学校又は高等学校に準ずる教育を施すとともに、障害による学習上又は生活上の困難を克服し自立を図るために必要な知識技能を授けることを目的とする。
児童生徒を善良な『社会の形成者』に育て、
彼らが社会に出た時に困らないように、
必要なスキルを身につけさせること。
これが特別支援教育の目的だと、僕は思っています。
特別支援教育にミニマリズムが不可欠な理由
先に、下記の記事をお読みいただくと、理解がしやすいかもしれません。
特別支援教育においては、
以下の2つの『制限』と向き合わざるを得ません。
- 『能力』の制限
- 『時間』の制限
そのため、ミニマリズムを応用し、
- 課題の『選択と集中』
- 空間、時間、脳の『余白』づくり
をすることが、必要不可欠なのです。
以下、詳しく解説していきます。
特別支援教育における2つの『制限』
- 『能力』の制限
- 『時間』の制限
『能力』の制限
特別支援教育対象の児童生徒は、
一般の児童生徒と比べて、
ポテンシャル(能力の可能性)に『制限』がある。
これは、残念ながら、厳然たる事実です。
『時間』の制限
小学校に入学した子どもが、
高等学校を卒業して社会に出るまでには、
12年間という、長い準備期間があります。
しかし、
特別支援教育対象の児童生徒は、
非常にゆっくりと成長していきます。
彼らにとっての12年間は、
『社会に出るまでの準備期間』としては、
かなり『制限』された時間だと言えるでしょう。
課題の『選択と集中』、そして『脳の余白』
児童生徒には、たくさんのことができるようになって欲しい。
どの教員も、そう思っているはず。
ですが、現実的には『制限』があるのです。
(例)路線バスでの校外学習
児童生徒には、自分の財布からお金を取り出して、運賃を払えるようになってもらいたい。
その気持ち、ものすごくわかります。
しかし…
- 降車するバス停名を聞き、ボタンを押す
- 運賃を確認する
- 鞄から財布を取り出す
- 財布から運賃分のお金を取り出す
- お金を握り締めつつ、財布を鞄にしまう
- 運賃を支払う
- 運転手さんにお礼を言う
特別支援教育対象の児童生徒にとっては、
タスクが多すぎて、それはかなり難しいのです。
ここで、ミニマリズムの登場です。
タスクを、本質的なものだけに絞り込みます。
特別支援教育の目的は、
児童生徒を善良な『社会の形成者』に育て、
彼らが社会生活で困らないようにすること。
今回の場合で言えば、
運賃の支払いができて、
運転手さんにお礼が言えればいいのです。
僕が教員なら、児童生徒に交通系ICカードを持たせ、運転手さんへお礼をきちんと言えるように指導しますね。
- 降車するバス停名を聞き、ボタンを押す
- 交通系ICカードをタッチ
- 運転手さんにお礼を言う
タスクを本質的なものだけに絞ったことで、
児童生徒に『脳の余白』ができます。
その結果、彼らは落ち着いて行動できるし、
心から運転手さんにお礼を言うことができる。
そのように、僕は思うのです。
(例)教室での授業
児童生徒には、この授業でたくさんのことを伝えたいし、たくさんの活動を体験してもらいたい!
多くの教員がそう思うからこそ、
掲示物を教室の壁に華やかに貼りまくり、
たくさんの教材・教具を用意し、
児童生徒に、たくさん語りかけるのです。
教員は話が長くなりがちだと思います。
かく言う僕も、気を抜くとそうなってしまいます。
このブログの文章量で、察してくださっているとは思いますが…笑。
しかし、
児童生徒の中には、注意の集中が難しい人もいます。
彼らにとっては、
華やかな教室掲示も、机上の教材教具も、
その時の課題への集中の妨げになる場合があります。
ここで、ミニマリズムの登場です。
教室環境を、必要なものだけに削ぎ落とします。
この、佐々木典士さんのお部屋。
これこそまさに、
究極の『教室のあるべき姿』だと思ったりします。笑
「いや、やり過ぎだろw」
という声が聞こえてきそうですが…
しかし、作業学習の授業(将来に向けた職業訓練)では、こうした環境で作業に取り組む生徒も実際にいます。
一般の人から見れば「殺風景で、なんか可哀想」となるのかもしれませんが、彼らが集中して作業に取り組む為の『合理的配慮』だと僕は考えています。
そして、忘れてはいけないのが、
『児童生徒に対する言葉掛け多くなりがち』問題。
児童生徒にたくさんのことを伝えてあげたい!
こういう熱い善意から、教員の話は長くなりがち…。
しかし、児童生徒の中には、
多くの言語情報を一度に処理できない人もいます。
ここで、ミニマリズムの登場です。
言葉掛けを必要なものだけに絞り、
短い言葉で、『間』を充分取って、話すのです。
授業を始めます。みんな〜!いつものように、画用紙とハサミとのりを用意して〜!で、いつもと同じ席で作業を初めてね。で、今日は10個できたら先生に報告してね。わかったかな〜?はい、じゃあ始め〜♬
嘘のような話ですが、
こういう特別支援学校の教員、結構いるんです。笑
僕が教員だったら…
授業を始めます。
今日は10個。
10個できたら、僕に報告してください。
では、作業開始です。
必要なことだけを、短い文章で、
『間』を充分取りながら言います。
『要素』をミニマルまで削ぎ落とし、
『余白』を充分に確保する。
まさに、ミニマリズム。
文章が短ければ、児童生徒が内容を理解できる確率が飛躍的に上がります。
そして、文と文との間に、しっかりと『一瞬だけ黙る時間』を設けることで、児童生徒に「先生は何を言うんだろう?」と思わせて、こちらに注意を引きつけられるし、その後に言う言葉が『強調』されると思っています。
ミニマリズムとは関係ありませんが…
『いつもやっていること』についてまでベラベラと喋ってしまうと、児童生徒が「いつも次は何をするんだっけ?」と考える機会を奪ってしまいます。
言葉掛けは最小限に。
児童生徒が理解していないようだったら、追加で言葉を掛ければいいのです。
さいごに…
本記事で挙げたこと以外にも、
『行動をルーティーン化する』など、
ミニマリズムに通じる指導方法が、
特別支援教育の世界では行われています。
『ミニマリズム』と『特別支援教育』
この2つは、極めて親和性が高い。
そのように、僕は思っています。
課題を本質的なものだけに精選することで、
児童生徒は『脳の余白』がある状態で、
課題に集中して取り組めるので、
ゆっくりと確実に成長することができます。
そして、『課題の選択と集中』は、
指導する教員側にも『脳の余白』をもたらします。
指導者側が、精神的な余裕をきちんと持つ。
これは、特別支援教育において非常に重要です。
ミニマリズムは、
特別支援教育において、
児童生徒にも、教員にも、
計り知れない効用をもたらします。
最後に…
ミニマリズムと特別支援教育に関する、
本記事においての僕の一考察が、
特別支援教育に携わる皆様の一助になれば…
そう願いながら、筆を置きたいと思います。
ご清覧いただき、本当にありがとうございました。